-
「パネルデータにおける家計消費の変動要因 -測定誤差とデータ集計期間に関する一考察-」
Abstract
標準的な家計消費モデルに従うと、家計消費は所得に比べてスムーズに変化し、その動きはランダムウォークに近くなる。しかしながら、各国のパネルデータに記録されている家計消費変化率の分散は所得変化率の分散よりも大きく、ランダムウォークよりも i.i.d.に近い挙動を示している。本論文では、消費データの不安定性が測定誤差によるものなのか、それとも調査期間が短いためであるかを検証した。分析の結果、測定誤差よりはむしろ、消費支出調査期間の短さが消費変動の主要因であるという結論を得た。Needs-Scan/Panel を用いた食料消費支出の分析では、家計消費がランダムウォークに近くなるのは四半期以上の長期間の集計期間を用いた場合であり、またその場合でも、長期保存可能な食料支出はランダムウォークよりも i.i.d.に近い挙動を示した。これは通常の一週間や一カ月の情報に基づく家計消費データでは、消費支出の平滑化やランダムウォーク性の検証を行うことが困難であることを示唆するものである。
Introduction
標準的な家計消費モデルによると、家計消費は所得に比べスムーズに変化し、その動きはランダムウォークに近いものとなる。上記の性質は効用関数が時間に関して加法に分離可能であり、各時点での効用関数が凹関数であるという標準的な仮定に基づくものであり、マクロ動学モデルに限らず、家計の動学的意思決定を扱う多くの経済分析の基礎となっている。そのため、家計消費の平滑化およびランダムウォーク仮説に関しては非常に多くの検証がなされてきた。