Noriko Inakura ワーキングペーパー一覧に戻る

  • 「パネルデータにおける家計消費の変動要因 -測定誤差とデータ集計期間に関する一考察-」

    Abstract

    標準的な家計消費モデルに従うと、家計消費は所得に比べてスムーズに変化し、その動きはランダムウォークに近くなる。しかしながら、各国のパネルデータに記録されている家計消費変化率の分散は所得変化率の分散よりも大きく、ランダムウォークよりも i.i.d.に近い挙動を示している。本論文では、消費データの不安定性が測定誤差によるものなのか、それとも調査期間が短いためであるかを検証した。分析の結果、測定誤差よりはむしろ、消費支出調査期間の短さが消費変動の主要因であるという結論を得た。Needs-Scan/Panel を用いた食料消費支出の分析では、家計消費がランダムウォークに近くなるのは四半期以上の長期間の集計期間を用いた場合であり、またその場合でも、長期保存可能な食料支出はランダムウォークよりも i.i.d.に近い挙動を示した。これは通常の一週間や一カ月の情報に基づく家計消費データでは、消費支出の平滑化やランダムウォーク性の検証を行うことが困難であることを示唆するものである。

    Introduction

    標準的な家計消費モデルによると、家計消費は所得に比べスムーズに変化し、その動きはランダムウォークに近いものとなる。上記の性質は効用関数が時間に関して加法に分離可能であり、各時点での効用関数が凹関数であるという標準的な仮定に基づくものであり、マクロ動学モデルに限らず、家計の動学的意思決定を扱う多くの経済分析の基礎となっている。そのため、家計消費の平滑化およびランダムウォーク仮説に関しては非常に多くの検証がなされてきた。

  • 「日本家計の消費・貯蓄・労働プロファイル」

    Abstract

    日本家計の 10 年にわたるパネルデータを使用し、消費・労働供給・資産蓄積に関する平均年齢プロファイルおよび共分散構造を分析した。その結果、消費プロファイルの Hump Shape、右下がりの労働供給プロファイル等、平均プロファイルに関しては欧米の先行研究と概ね整合的であることがわかった。また、共分散構造に関しては、自己ラグとの相関パターンは欧米の先行研究とほぼ同様の傾向を示しているが、分散水準、特に所得成長率の分散が欧米にくらべて著しく小さく、また所得と労働や消費間での同時点の相関も小さいことが明らかになった。

    Introduction

    不完備資本市場のライフサイクルモデルは、家計の消費・貯蓄行動のみならず、近年では労働供給行動を分析するツールとしても広く利用されている。特に、コンピューター技術の発展によりシミュレーションベースの推計が可能になったこと、およびマイクロデータへのアクセスが昔にくらべて容易になったことから、従来のように、線形近似されたオイラー方程式の推計にとどまらず、動学モデルの構造を最大限利用した動学構造推計によりライフサイクルモデルのデータ説明力を検証する試みが広がりつつある。

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