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日本の自発的ロックダウンに関する考察
概 要
新型コロナウイルスの感染拡大に対して,日本政府は緊急事態宣言を含む施策を 行った。本稿では,日本政府の施策がどのようなメカニズムで国民の行動変容を引き 起こしたかを検討した。スマホの位置情報データを用いて,人々のステイホームの度 合いを示す指標(外出者数 × 外出時間がコロナ前に比べてどれだけ減少しているか) を,県別に日次で作成し,その上で,各施策の開始と終了のタイミングが各県で異な ることを利用して,各施策が行動変容を引き起こすチャネルとして,(1) 国民が政府か らの要請に従い外出を抑制する効果,(2) 国民が政府の施策のアナウンスメント等を もとに感染状況に関する認識を更新し自発的に外出を抑制する効果,の 2 つを識別し た。本稿の主要な結果は以下のとおりである。第 1 に,感染拡大に伴い国民の外出は コロナ前に比べて約 32%減少したが,そのうち政府からの要請に伴う行動変容で説明 されるのは 12%ポイントだった。第 2 に,各県における新規感染者数が 1%増加する と,その県の人々の外出は 0.022%ポイント減少した。第 3 に,東京都の外出抑制のう ち政府の要請が寄与したのは約 4 分の 1 であり,残りの約 4 分の 3 は政府のアナウン スや日々発表される感染者数など,感染に関する新たな情報を受け取った都民が,感 染のリスクをアップデートしたことによって生じた。本稿の分析結果は,感染封じ込 めに必要なのは法的拘束力の強い措置ではなく,人々の行動変容を促す適切な情報の 提供であることを示唆している。1 はじめに
コロナの感染拡大を受けて日本政府は 2 月 27 日に県などの地方自治体に対して学校の 閉鎖要請を発出した。続いて日本政府は 4 月 7 日には東京都を含む 7 県を対象地域として 緊急事態宣言を発出し,4 月 16 日には対象地域を 47 都道府県全部に拡大した。安倍首相 は「外出を控えることによって,人との接触を最低でも 7 割,極力 8 割減らして欲しい」 と国民に呼びかけた。こうした政府の要請に反応して人々は外出を抑制した。例えば東京 に住む人々が外出する割合は,3 月にはコロナ感染が拡大する前の 1 月との比較で −18% であったが,緊急事態宣言の発動中の 4 月 26 日には −64% まで低下した。こうした人々 の外出抑制の結果,1 日当たりの新規感染者数はピーク時の 209 人から 5 月 23 日には 2 人 にまで低下し,5 月 25 日には緊急事態宣言が解除された。WP026