大森悠貴Back to index

  • コロナ収束後もオンライン消費の増加は続くか クレカ取引データを用いた分析

    要旨

    新型コロナの感染拡大に伴い人々の消費スタイルが大きく変化している。外食や娯楽などFace-to-face の接触を伴うサービスへの需要が激減する一方,E コマースなどモノやサービスのオンライン消費は増えており,コロナ収束後も続くとの見方がある。ポストコロナはコロナ前に戻るのではなく,オンライン消費を軸に新たな消費スタイルが生まれるとの見方もある。

    本稿ではコロナ収束後もオンライン消費の増加が続くかどうかについてクレジットカード取引データを用いた検討を行う。オンライン消費には,端末の入手やネット環境の整備,ノウハウの習得など,初期コストがかかり,これが普及を妨げる要因のひとつとみられていた。しかし,コロナを機に多くの消費者が既に初期投資を行ったということであれば,コロナが去った後も,オフライン消費に戻る理由はなく,高水準のオンライン消費が続くということになる。

    本稿では以下のファインディングを得た。第1 に,オンライン消費増加の主たる担い手は,コロナ前からオンライン消費に馴染み,オンラインとオフラインを併用していた消費者である。こうした消費者が,オンライン消費の割合を高め,さらにはオフライン消費を一切やめてオンラインのみに切り替えた。第2 に,オンライン消費の経験のない消費者の一部が,コロナを機にオンライン消費を始める動きもみられた。ただし,その度合いはコロナ前のオンライン化の趨勢と大きく異ならなかった。第3 に,年齢別にみると,若年層がオンライン消費を増やした一方,シニア層の寄与は小さかった。例えば,コロナ前にオンラインとオフラインを併用していた20 代後半の消費者のうち16%がオンライン消費のみに切り替えたが,同じくコロナ前にオンラインとオフラインを併用していた60 代前半の消費者のうちでオンラインのみに切り替えたのは11%であった。オンライン消費への切り替えの年代間の差は,デジタルリタラシーの差によるものではなく,感染を回避する姿勢の差を反映していると考えられる。

    上記のファインディングは「オンライン消費の経験のない消費者(特にシニア層)がコロナを機に新規参入した」という見方が適切でないことを示唆している。消費者の多くはコロナを機に初期投資を行ったわけではなく,したがって,オンライン消費増の一定部分はコロナ収束とともに剥げ落ちる可能性がある。

    1 ポストコロナの個人消費

    新型コロナの感染に伴い人々の消費スタイルが大きく変化している。ひとつはFace-to-face の接触を伴うサービスの消費を抑える動きである。『JCB 消費NOW』でも本年2 月以降,外食や娯楽,旅行,宿泊が大幅な減少を示している。モノ消費でも,コンビニやスーパーの店頭でのFace-to-face の接触を嫌う傾向がある。例えば,スーパーでの購買は,1 人の消費者が購買する金額は増えており,そのためスーパーでの購買金額は増えているものの,購買者数自体は減っている。
    もうひとつの重要な変化は,Face-to-face の接触を伴わないサービスやモノの消費の拡大である。『JCB 消費NOW』でみると,サービス消費では,映画や劇場での消費が大幅に減少する一方,コンテンツ配信は増えている。モノ消費についても,ネット経由での購買,いわゆるE コマースが大幅な伸びを示している。

     

     

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