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「価格の実質硬直性:計測手法と応用例」
Abstract
本稿では,各企業が互いの価格設定行動を模倣することに伴って生じる価格の粘着性を自己相関係数により計測する方法を提案するとともに,オンライン市場のデータを用いてその度合いを計測する。Bils and Klenow (2004) 以降の研究では,価格改定から次の価格改定までの経過時間の平均値をもって価格粘着性の推計値としてきたが,本稿で分析対象とした液晶テレビではその値は 1.9 日である。これに対して自己相関係数を用いた計測によれば,価格改定イベントは最大 6 日間の過去依存性をもつ。つまり,価格調整の完了までに各店舗は平均 3 回の改定を行っている。店舗間の模倣行動の結果,1 回あたりの価格改定幅が小さくなり,そのため価格調整の完了に要する時間が長くなっていると考えられる。これまでの研究は,価格改定イベントの過去依存性を無視してきたため,価格粘着性を過小評価していた可能性がある。
Introduction
Bils and Klenow (2004) 以降,ミクロ価格データを用いて価格粘着性を計測する研究が活発に行われている。一連の研究では,価格が時々刻々,連続的に変化しているわけではなく,数週間あるいは数ヶ月に一度というように infrequent に変更されている点に注目し,そうした価格改定イベントの起こる頻度を調べるという手法が用いられている。そこでの主要な発見は,価格改定イベントはかなり頻繁に起きているということである。例えば,Bils and Klenow (2004) は,米国 CPIの原データを用いて改定頻度は 4.3ヶ月に一度と報告している。Nakamura and Steinsson (2008) は同じく米国 CPI の原データを用いて,特売を考慮すれば改定頻度は 8-11ヶ月に一度と推計している。欧州諸国に関する Dhyne et al (2006) の研究や,日本に関する Higoand Saita (2007) の研究でも,数ヶ月に一度程度の頻度で価格改定が行われるとの結果が報告されている。