研究の背景・目的

中央銀行はかつての秘密主義から積極的な情報開示へと大きく転換しつつある。しかし中央銀行と民間のコミュニケーションに関する学術的なコンセンサスは形成されておらず、そのため各国の中央銀行は試行錯誤を余儀なくされており、リーマンショック後の世界経済の混乱に象徴されるような経済不安定化の原因となっている。本研究では、中央銀行の発信が消費者・企業家・投資家の「関心」と「信認」を獲得できているか、できていないとすればそれは何故か、それによりいかなる不都合が生じているかを実証的に明らかにする。その上で、マクロ理論とゲーム理論を用いて、人々の情報の取得や処理に費用がかかるとの設定の下で、人々の取得する情報の種類(何に注目するか)とその精度(どれくらい注目するか)が内生的に決まるモデルを構築し、中央銀行の発信に対する人々の注目度の決定要因を考察する。理論と実証の検討結果を踏まえ、人々の経済厚生の向上に資する政策コミュニケーションの制度を設計する。

研究の方法

中央銀行の対話を解明するための作業を4つに分け、班として構成する。「理論モデル」班はマクロ理論とゲーム理論の両面からのモデル分析を行う。「実証・サーベイ」班はデータとサーベイを用いた実証研究により、中央銀行の発信に対する消費者や企業の反応の有無とその原因を探る。「非構造化データ」班は、中央銀行の発表する政策決定文書や総裁講演などの文字情報を用いて中央銀行と民間の対話の現状を探る。「事例研究」班は、2000年以降の日銀を題材に情報伝達に関する事例研究を行う。

本研究のテーマは中央銀行と民間のコミュニケーションであり、コミュニケーションは文書や発言のかたちをとるので、そうした非構造化データを扱いやすい形に変換した上で分析を行う必要がある。具体的には、図に示したように、①日銀から発信される文字情報(政策決定文書、総裁記者会見など)、②Bloombergなど経済ニュースを扱う報道機関から発信される日銀関連の文字情報(報道記事、識者コメントなど)、③投資家(金融機関等)が発信する日銀関連の文字情報(日銀の政策に関するコメント・分析など)の3種類のデータセットを作成し、LDA(Latent Dirichlet Allocation)などテキストマイニングの手法を適用する。

期待される成果と意義

日本は世界に先駆けてゼロ金利制約下の金融政策コミュニケーションの困難に直面し、多くの試行錯誤を行ってきた。その豊富な事例を理論・実証分析することにより、日本の経験を普遍的な学術知見にまで高めて世界に発信する。中央銀行の「独立性」は、学術の知見が現実の制度を動かした例として有名だが、本研究では、中央銀行の「透明性」について、これに匹敵する貢献を果たす。

当該研究課題と関連の深い論文・著書

  1. “Novel and Topical Business News and Their Impacts on Stock Market Activities,” T. Watanabe, T. Mizuno, T. Ohnishi, EPJ Data Science (2017) 6: 26.
  2. “High Quality Topic Extraction from Business News Explains Abnormal Financial Market Volatility,” T. Watanabe, R. Hisano, D. Sornette, T. Mizuno, T. Ohnishi, PLoS ONE 8(6): Published 6 June 2013.
  3. “Characterizing Social Value of Information,” T. Ui, Y. Yoshizawa, Journal of Economic Theory 158, 507–535, 2015.

研究期間と研究経費

平成30年度-34年度 144,500千円